この冬、私が履いているショートブーツは母の品です。
母は一昨年の暮れから寝たきりになり、去年の2月に胃瘻を造りました。
重度の認知症のために意思表示が3年近く前から出来ません。
痛いと顔をしかめるだけ。
話すことも食べることも忘れてしまった母。
そんな様子を見るのは辛いものです。
胃瘻を造って良かったのかどうか迷いました。
昨年の夏、天気の良い日に下駄箱の片付けをしていて母のブーツに目が留まりました。
母が70歳の時に父が誕生日プレゼントとして母に渡した品です。
足が冷えやすい母にと購入したブーツ。
もちろん高齢の女性向けのショートブーツです。
しかし、母は「こんなハイカラな品」と戸惑い、数回しか履きませんでした。
少々踵は擦り減っていますが、新品に近い立派な品です。
幸い私は母と足のサイズが同じ。
試みに履いてみました。ちょうど良い感じです。
私はもうすぐ52歳。
ごく普通の主婦です。
別段ファションセンスがいいわけでもありません。
今さら若いコのようにロングブーツに挑戦してみようという覇気もなく、でもブーツにはときめきを感じます。
やはりお洒落です。
それにつくづくと眺めていると、そのショートブーツには父の愛を感じます。
他界して8年以上経つ父が「お前が履いたらどうだ。その方があれも喜ぶだろう。」と言ってくれている気がしました。
十分に風に当て、去年の12月に初めて履いてみました。
初雪が待った寒い日です。
尿路感染で入院した母を見舞いに行くために履きました。
固く目を閉じた母に心の中で「お母さん、このブーツ履かせてもらってるよ。温かいね。」と話しかけました。