初めてブーツを買ったのは、高校1年生の時でした。
私が通っていた学校は、制服が無く、
みんな自由な服装で登校していました。
靴も様々で、男子は運動靴が一般的だったのですが、
やはり女の子はお洒落に興味が出てくる時期でもあり、
革靴や普通にハイヒールを履いてくる子も大勢いました。
そして、冬になると、ちらほらと、
ブーツを履いてくる子が出てきました。
一応、都会の真ん中にある学校ですから、
派手とまではいかなくとも、センスの良い子は何人かいるものです。
ただ、それまで、ブーツなんて履いた事の無い私にとっては、
それは一大事でした。
僅かばかりのお小遣いから、なんとか洋服代を工面していたのですから、
とてもブーツにまで手が届きません。
けれど、やはり自分もお洒落をしたい、恰好良く見られたいのです。
ちょうど自我が目覚めて来る頃なので、自分の事以上に、
他人が気になって仕方ありません。
それも、内面ではなく、あくまでも外面です。
顔は可愛いか、どんな洋服を着ているか、スタイルはどうかとか、
同級生と自分を比べては、一喜一憂する毎日でした。
そんな中で、ブーツを履くかどうかというのは、
そのお洒落な一群に自分が入れるか否かという、
私にとっては踏み絵のようなものでした。
そして、余分なお金もあるはずのない私が、
最後に泣きついたのは、父でした。
普段から気難しく、軽々しく口を利くような事も滅多に無かった父でしたが、
いざという時になると、やはり頼りにしていたのでしょうか?
「ブーツが欲しいのだけど・・・」と怖々言ってみました。
歩く質素倹約のような父は、「高校生のくせに」などと、
一応小言を言った気はしますが、なぜか一緒に買いに行ってくれました。
靴屋に行って、父と選んだのは、赤いスエードの、
くるぶしまでしかない、ぺったんこのブーツでした。
私は、茶色とか黒の膝まである大人っぽいものが欲しかったのに、
どうしても素直に言えませんでした。
そんなに早く大人になろうとしなくてもいいのに、
どうしてあんなに焦って周りばかり見ていたのか。
今の私なら、あの時の私にそう言ってあげたいです。
もしかしたら、父もそう思っていたのかも知れません。
あの時のブーツは、あんまりお洒落じゃなかったけど、暖かった。
それだけは、確かです。